--1988年4月18日-- 対ギャング戦争

=加州毎日新聞は1931年から1992年までロサンジェルスで発行された日系新聞です=

          +



  先週ランチョパーク・ゴルフコースで行われた(岡本綾子も出場した)全米女子プロゴルフ協会(LPGA)のトーナメントを取材するためにロサンジェルスを訪れていた日本のあるヴェテラン新聞記者が<これは想像以上だ>と驚いたことがった。
  そんな情報はもちろん日本にも入っていたし、この記者には予備知識もあった。だが、新聞などに見る現地での事件の扱いぶりは、この記者が日本で思っていたものの数倍も大きかった。
  この記者は、たぶん、ゴルフの記事を送るのに負けない熱心さで、この一連の事件の概要を日本に伝えたに違いない。
  ロサンジェルスの“対ギャング戦争”がそれだった。

  たとえば、十三日の<ロサンジェルス・タイムズ>紙の報道はどうかというと−。
  ロサンジェルス市議会は十二日、ストリートギャングの取締りを一層強化するための、警官の超過勤務手当て用追加予算四五〇万㌦を全会一致で緊急承認した。
  この金額は、さきに同市議会財政委員会が約六週間分として承認していたものを二〇〇万ドルも上回るもので、同市会計年度が終了する六月三十日までの警官の超過勤務手当てに充当される。
  超過勤務態勢による夜間のギャング撲滅作戦は、昨年開始されたギャングによる麻薬取り引きの一斉取締りにつづくもので、二月九日には市議会が二か月間分として二二〇万ドルの予算を承認していた。
  警官一千人を動員して行われた九日から十日にかけての取り締まりで検挙された者の数は一四五三人。このうちの約五五%、七九四人はギャングメンバーと見られている。全検挙者中の二〇四人が成人重罪容疑者、四一人が未成人重罪容疑者だった。

  最初の予算、二二〇万ドルを使ってギャング一掃作戦が開始されたのは二月二十六日だ。以来、四月九日までにサウス・セントラル地区を中心に九回の一斉取り締まりが行われた。その間の検挙者の合計は一四一三人に達していた。そのうちの七九%、一一二四人がギャング関係者だった。
  この数字に九日〜十日の検挙者数を足すと、合計は二八六六人になる。ギャング関係者だけでは一九一八人だ。
  さて、いま、これだけの数のギャングを検挙するのにかかった経費が二二〇万ドルだったとすると、一人当たりの経費は一一五〇ドルということになる。
  警官一〇〇〇人を一晩動員するのに要する費用は一五万ドルだという。二二〇万ドルはほぼ十五回分に当たる。

  ロサンジェルスには現在、クリップスとブラッズという二つの大組織を中心に、約五〇〇グループ、七万人のギャングメンバーがいると見られている。
  これを半減させようという目標を立てたとしたら、それにかかる費用はどれぐらいになるのだろうか。−−検挙者一人当たり一一五〇ドルで三五〇〇〇人。四〇〇〇万ドルという気が遠くなりそうな額だ

  ロサンジェルス市で昨年殺された者の数は八一三人。このうち三八七人がギャング同士の抗争による死者だった。
  ちなみに、民族・宗教紛争が絶えない中東のベイルートでの殺人件数は昨年、およそ九〇〇だったという。
  ロサンジェルスでは今年初めから十三日までに、ギャングが関連した殺人が八七件発生している。
  デュークメジアン州知事はこのような事態を受けて、州兵を出動させることも検討しているらしい。そこまで事態が悪化することはないだろうが、残念なことながら、“ない”と言い切れない怖さもこのロサンジェルスに存在しているようだ。