--1988年5月3日-- 包括貿易法案

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  米国の巨大な貿易赤字と国際競争力の低下に対応する目的で一九八七年初め、下院、上院、政府はそれぞれ貿易法案を作成した。
下院案は、日本などの対米過剰貿易黒字国に対して強制的な黒字削減を求める<ゲップハート条項>を含んだ内容(法案HR3)で、八七年四月三十日に本会議で可決されている。
上院案は、外国の不公正貿易慣行に対する報復を義務づける<スーパー三〇一条>を盛り込んだ内容(S490)で、七月二十一日に本会議で可決されている。
政府案は、<一九八七年貿易・雇用・生産性法案>と呼ばれた。八月五日には三法案を一本化するための両院協議会が設置されている。

  三法案はいずれも「貿易相手国の不公正慣行の是正および対抗措置の強化」と「米国の国際競争力の強化」が主な内容となっていたが、八八年三月三十一日、両院協議会は<ゲップハート条項>の削除を決定し、①<スーパー三〇一条>②東芝制裁③証券会社の内国民待遇の要求④工場閉鎖事前通告義務−などが一本化法案に残されることになった。
  同協議会は先月十九日、<対米外国投資公開条項>を削除して一本化作業を完了したが、レーガン大統領はこれに対し直ちに、拒否権発動方針を明らかにした。
  同二十一日の下院本会議では、共和党が<工場閉鎖事前通告義務条項>の削除動議を提出したが、労組の支持がほしい民主党が反対したため、同動議は否決され、先に一本化されていた法案が大差で可決された。二十七日、上院も同法案を可決、これを結局大統領に送付した。

  <スーパー三〇一条>は①外国の不公正貿易への対応策の決定権限を大統領から通商代表部(USTR)に移管し②外国に貿易協定違反や正当化できない貿易慣行があればUSTRは当該国と五か月間協議を行い③強制力のある取り決めに達しない場合は十二か月から十八か月以内に報復措置を決定④それから三十日以内に報復を実施する−という内容で、そのためUSTRは毎年議会に外国の不公正貿易慣行のリストを提出、報復優先順位を記録していくことになる。

  <東芝制裁>は①東芝機械とコングスベルグ社(ノルウェイ)の対米輸出を三年間禁止し②東芝本社の対米政府納入を三年間禁止するが③安全保障、交換部品、保守に関わる製品、および八七年六月以前の契約分は禁止されない−などという内容だ。

  <米国証券会社の内国民待遇の要求>は①米国企業が外国で一年以内に内国民待遇が得られない場合、当該国の米政府証券公認ディーラー資格を剥奪するが②八七年七月以前に米証券業者を買収している場合は剥奪を免除する−というものだ。

  <工場閉鎖事前通告義務条項>は、従業員百人以上の企業が五十人以上の雇用に影響する工場閉鎖あるいはレイオフ(一時解雇)を行う場合には六十日以前の事前通告を義務づける−という内容で、レーガン大統領が最も強く反対を表明している条項だ。

  同法案の中にはほかに、日本を名指しした条項がある。①米国の建設会社に対する日本の障壁を調査する義務をUSTRに課する②日本製鉄鋼輸入量を決める際には日本の米国産石炭輸入量を考慮し、八八年十一月までに議会に報告する③関西新空港建設における米企業差別の再発を防ぐために、この種の差別行為を調査して毎年議会に報告する−がそうだ。

  二十九日づけ<朝日新聞>は、この法案が「単に個別品目を問うよりも、相手国の商慣行など、貿易の法制度の枠組みから離れた非制度的なものまで問題にしようというもの」とし、「通商摩擦は新たな段階に入った、といえる」と述べている。

  レーガン大統領はくり返し、同法案には拒否権を発動すると言明しているが、議会側が法案の手直し、一部条項の削除を行う可能性もまだ残されているため、包括貿易法案がどういう形で決着するかどうかについては、まだ予断できない状況だ。